||   magic / 魔法   ||



ぼくの考えている魔法は、ステージ上でのトリックや、目くらましとはだいぶ違う。 この世には魔法が満ちあふれている。  クジラが、生まれたての山のように、海のなかからひょっこりと現れたとき、あなたは思いがけない喜びに、深いため息をつくだろう。  何という不思議だろう! また、どろんこの水溜まりで泳いでいるオタマジャクシを生まれてはじめて見た赤ん坊も、これと同じような興奮を覚える。  その子は、一瞬のうちに生命の楽しさを目のあたりにし、不思議な思いに打たれるに違いない。
   雪をかぶった山頂を流れる雲を見ていると、ぼくは思わず 「ブラボー!」 と叫びたくなる。  自然は世界一の魔法使いで、ほかにもさまざまな興奮をぼくらに呼び起こしてくれる。 自然はぼくらにほんとうの幻を見せてくれ、その不思議な力に驚くぼくらの無力さを、思い知らせてくれる。  太陽が昇るたび、自然はぼくらに 「見たまえ!」 と命じる。 自然の用いる魔法は実にさまざまだが、ぼくらときたら、その魔法を感嘆の目で見つめることぐらいしかできないのだ。

渦巻く気体と、からっぽの宇宙から星をつくり出したとき、自然はどんな喜びを感じたのだろう。 ヴェルヴェットのケープを広げてきらめく星たちを天空にちりばめ、自然はぼくらの心に、何百万もの喜びを呼びさましてくれる。 ぼくらが心を開き、自然が恵んでくれたすべてのものに感嘆の声をあげるとき、自然ははじめて報われるのだ。 ぼくらのあげる喝采の声は宇宙全体にこだまし、そのとき、自然は深々を頭をさげてそれに応えるだろう。